顔面神経麻痺

顔面神経麻痺とは?

日常生活において何気なくおこなっている、眉毛を上げたり、目を閉じたり、笑ったり、口をすぼめたりといった動き。こういった動きがもしできなくなった場合には社会生活にも多大な影響がでてしまいます。表情は顔面にある表情筋によりつくられ顔面神経がその動きを担っています。顔面神経麻痺とは何らかの原因により神経にダメージをうけてこのような動きができなくなった状態のことを言います。顔面の筋肉が動かないことで表情の動きの左右差がでるだけでなく、麻痺した側の顔面が引力に従って垂れ下がってしまい、安静にしているときにも左右差がおこることがあります。

特に症状が強いと、

  • 眉毛が瞼に垂れ下がって前が良く見えない
  • 目が閉じられず、目が乾きやすかったりシャンプーで目がしみる
  • 笑いの表情がつくれない
  • 口角が下がって食べ物がこぼれる
といった問題が発生します。特に、目が乾いてしまう状態が長く続くと角膜に障害が発生し、著しい視力低下が発生することがあります。

顔面神経麻痺の原因

顔面神経麻痺の原因は、Bell麻痺、Ramsay-Hunt症候群、外傷、腫瘍および腫瘍摘出に伴うものなどです。Bell麻痺は顔面神経麻痺の原因の最多のもので10万人あたり20~30人程度、次にRamsay-Hunt症候群が多く10万人あたり5人程度とされこの二つが顔面神経麻痺の原因の殆どを占めています。Bell麻痺ではヘルペスウイルスが、Ramsay-Hunt症候群では水痘・帯状疱疹ウイルスがそれぞれ顔面神経に潜んでおり、それらが活性化することで発症するとされています。Bell麻痺で30%程度、Ramsay-Hunt症候群では40%程度の方には何らかの障害が残るとされています。

顔面神経麻痺の外科的治療

顔面神経麻痺が発生した場合、原因や症状によって治療法は異なります。

a) 物理的に神経が切断している場合

外傷や脳腫瘍やの摘出にともない神経が断裂した場合は、神経の直接縫合あるいは神経移植術を行います。神経移植術の場合は、下肢の神経を採取して移植します。

b) 物理的な神経の断裂が無い場合

Bell麻痺では、主にステロイド投与、Ramsay-Hunt症候群では抗ウイルス剤の治療を行います。治療は耳鼻咽喉科で行います。腫瘍や外傷によるものは経過観察を行います。いずれの症例も必要に応じて電気生理学的検査などを行います。所見より自然回復が難しいと予想される症例では当科にて外科的手術を行います。手術は生じた不具合に応じて行っていきます。動きを再現する術式あるいは、左右差を整えるなどです。例えば目を閉じることと笑いの表情を再建する場合には神経移植を行います。神経は脚の神経を採取して健常側との間に移植したり、舌下神経(舌を動かす神経)との間に移植します。この手術は麻痺発症後早期に行うことが重要で、様々な所見から判断します。

経過観察をしても不運にも回復しなかった場合、あるいは部分的に麻痺が残ってしまった場合には、症状に応じて手術を行います。

i. 瞼を閉じる手術

  • 金の板を挿入する⇒重さで瞼を閉じる
  • 軟骨を移植する⇒下がってしまった下まぶたを閉じる
  • 側頭筋膜を移行する⇒側頭部の咬む筋肉と筋膜を移動させる

ii. 笑の動きの再現

  • 筋肉移植⇒筋肉を移植し血管を縫合かつ神経を縫合する
  • 筋膜移植⇒太ももの筋膜を移植や、頭部の咬む筋肉を移動させる

iii. 眉毛を上げる

  • 皮膚切除⇒眉毛の上の皮膚を切り取る
  • 糸や筋膜での吊り上げ⇒垂れ下がった瞼を前頭部に固定する

iv. そのほか

神経が再生する際に正しい再生が行われないと本来の動きとは別の部分が動いてしまうことがあります。これを病的共同運動といいます。例えば食べ物を噛むと目も一緒に閉じてしまうなどです。こういった症状は、ボトックス注射による治療または外科的治療で改善することがあります。
注)ボトックス注射は効果が永続的ではないため、定期的に通院いいただくはあるいは、外科的治療を追加させることが必要となる場合があります。

当科では、顔面神経麻痺に伴うさまざまな症状に対する治療のうち、主に外科的治療を担当しています。症状には個人差があり、治療法もさまざまで上記以外のものもあります。当院では、個々の症例の症状に応じてオーダーメードの治療を行っております。お気軽のご相談下さい。


顔面神経麻痺の主な症状

神経移植術を用いた動的再建

口角挙上のための遊離筋肉移植術